生蝉★CICALA-MVTA★LIVE!2006


今月末にシカラムータの「初の公式ライヴ盤」がリトルモアよりリリースされます。
前作『ゴースト・サーカス』は2004年のベストに選んだほどで、いまでもよく聴くCDだが、これもまたすばらしい。


ゴースト・サーカス

2004年極私的音楽回顧


「2004年日本のポピュラー音楽回顧」という依頼なのだが、僕の狭くて偏った、かつ乏しい聴取リストからいわゆる「今年のベスト」のようなものをセレクトすることはできないので、あくまでも今年「個人的」に聴く頻度が高く、また考えさせられたものということで何枚かを取り上げる。もちろん順位とか、採点とかまったくそういう類いのものではない。好きになる音楽、自分の中にひっかかる音楽というのは、結局は自分がどれだけその作品に心酔したか、愛おしく感じたか、ということであって客観的な評価とはまるっきり別の基準を持っているものだ。いわゆる名盤として誰もが挙げるような作品ではなくても、それが誰かにとって大切なものであればこそ、それは個人的名盤となり得るのだ。


2004年、気違いじみた暗雲が世界を覆っている、とでもいうような状況の中、人々はそれぞれのやり方でそれに抗おうとしていた。ここ日本でも自衛隊イラク派兵や国民保護法案、音楽に関していえば輸入盤規制問題など、僕らは音楽を聴く自由さえ奪われようとしているのかと思うとぞっとする。「音楽は世界を変えられるだろうか?」ということがすでに反語的に解釈されてしまうような時代に、ソウル・フラワー・ユニオンの『極東戦線異状なし!?』(BMtunes)は、音楽の持っている意志が、十分な力とともに充填された作品として際立っていた。あまりにも直截な歌詞は、やや気恥ずかしさを覚えることも否めない部分があるが、もっとも重要なのは最後の一行だろう。「世界のあまたの唄」が連中の「首根っこを押さえる」。それはもしかしたらいつまでも終わらない抵抗の歌なのかもしれない。しかし、音楽が何かを変える力になるかもしれない、なるはずだという願いは音楽に残された希望のひとつといえるのではないか。


とにかくよく聴いたシカラムータの『ゴースト・サーカス』(リトルモア)にも同様の姿勢が伺える。それはキラパジュン/オルテガの「不屈の民」やヴィクトル・ハラの「平和に生きる権利」といった曲が演奏されているということだけでも伝わるだろう。ただ、それらを「正しさ」だけによって評価すれば、ともすると音楽とは関係のない話になってしまう。しかし、彼らの音楽は十分に気分を高揚させてくれるし、感動させてもくれる。『極東〜』にもインストゥルメンタルの曲が多いのは言葉の壁を越えたコミュニケーションを可能とするからか、各地の民衆の意思と共鳴するかのようなそのサウンドはとにかく力強い。


以下、よく聴いたもの。渚にて『花とおなじ』(P-vine)とテニスコーツ『ぼくたちみんなだね』(rover)は、声高に何かを主張することとは対極のとてもパーソナルな世界を垣間見せてくれる。しかし、そんな世界を守れるような自由を僕らは固持していかなくてはいけないだろう。monoの『Walking Cloud And Deep Red Sky, Flag Fluttered And The Sun Shined』(human highway)は、大きなカタルシスの波がゆっくりと押し寄せてくるかのようなインスト・ロック。ゆらゆら帝国のベスト盤『1998-2004』(MIDI)のボーナス・ディスク、dip『Fun machine』(リトルモア)や山本精一想い出波止場『大阪・ラ』(DAKO VYNAL FANTASIA)は、実験的なサウンド・プロダクションがなされながら、ポピュラー音楽のフォーマットで高い創造性を獲得している。

図書新聞 2004年12月 日号掲載(いま掲載紙が見つからないのであとで)
少しだけ改稿